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Beat Up

2024

対ワールド戦・観戦記


 「見に来た人の人生観が変わる様な『熱い』試合をしてこい。お前たちはワセダなんだ」(清宮監督)。4年に1度の特別な瞬間、2月29日。この一年のすべてを懸けた『大田尾組』が、トップリーガーをギリギリまで追い詰めた。
 乾坤一擲のガチンコ勝負。2003年シーズン最後の一手として、主将・『10番』大田尾竜彦をアタック時にインサイドCTBに配置。『12番』安藤栄次の安定したキックと、『10番』大田尾の展開力、自らゲームを壊した前年(対リコー)の反省を踏まえた、メリハリのあるゲーム運びで思惑通りの勝負に持ち込んだ。
 80分間チームを支えたのは他でもない『熱く』、しつこいディフェンス。清宮監督が与えたゲームキーワード・『荒ぶれ』を地でいくかのように低く、激しいタックルを連発し、運動量でも相手を完全に凌駕した。「FWがしっかり守ってターンオーバーすれば、一発でトライが取れると思っていた…」(ロック桑江崇行)。
 3分、26分のペナルティーゴール(いずれも『12番』安藤栄次)で常に先手を奪い前半は6-5。「必ずチャンスが来る。我慢して最後まで集中しろ。勝負所を絶対に逃すな」(清宮監督)。金星への確かな手応え。失せることのない勝利への探究心。数々の伝説を生み出してきた赤黒から強烈なオーラーが発せられた。
 しかし、「重さを生かしたあのモールはしんどかった」(桑江)と言う様に、後半に入ると相手モールの執拗さが激増。「あれはやっぱり悔しかった…」(大田尾)。7分、12分とトップリーグの意地に屈し、余りに重い10点のビハインドを背負ってしまう(9-19)。秩父宮を包み込む大きなため息。『大田尾組』終焉の時を予感させたが、『荒ぶる』ことを誓ったワセダの闘争本能は少しも萎えることはなかった。「そんなトライ気にするな。ここからトライを取りに行け」(清宮監督)…。
 一気のギアチェンジ。『高速』展開で攻めに攻めた後半32分、ついにその時が訪れる。敵陣22mでペナルティーを得ると、『清宮ワセダ』が節目節目で必ずトライを奪ってきた『一撃必殺』のサインプレーが炸裂(SHとNO8のループからロングパスで相手ディフェンスを分断)。この1年トライを量産してきたフランカー松本允が抜群のスピードでインゴールに飛び込み、再び勝機を手繰り寄せた。
 そして35分。自陣ラインアウトから『大田尾組』のすべてを懸けた、「この展開、この時間帯で使うために準備してきた」(清宮監督)とっておきのスペシャルサインプレーで最後の大勝負。「自信のあるプレーだったけれど…」(清宮監督)。しかし、ケガの治療で一瞬ピッチを離れた切り札・佐々木隆道がラインに入りきる前にプレー再開。「あそこは準備してきた通り隆道を入れたかった…」(大田尾)。運命のいたずらか、不完全なアタックでターンオーバーを喰らい、ジ・エンド。最後もえげつないFW戦に沈み、『大田尾組』は無残にも舞い散った。
 「自分たちのやってきたことが来シーズンにつながるかは、先を見てみないと分からない」。この1年、全人格を懸けチームを引っ張ってきたスキッパー大田尾は試合後、ロッカールームでつぶやいた。しかし、最大目標・大学選手権優勝、打倒・トップリーグこそ果たすことはできなかったが、「世の中に夢と希望を与える」ワセダらしさは最後まで堅持。「来年はこのレベルのチームに勝てる」(桑江)、「4年生の力を思い知らされた。僕が在学中にトップリーグに勝ちますよ」(佐々木)。常勝ワセダ、打倒・トップリーグへの大きな第一歩。2004年2月29日、『大田尾組』の激闘はずっと忘れない…<早大ラグビー蹴球部広報 疋田拡>

<あと一歩の敗戦に悔しさを滲ませた清宮監督>
「大学選手権優勝という目標を達成することはできなかったけれど、ワセダはトップリーグ中盤のチームとやれるということを今日は証明してくれた。日本選手権の存在意義が毎年論議を呼んでいるけれど、学生にとってはいい目標だし、達成すべき価値のある試合であると改めて感じた。ワールドはスタワーズ選手が出ていなかったり、SOがこれまでと違う選手だったりと、気の緩みはあったかもしれないけれど、他のメンバーはスタメンで出てきた選手なので、言い訳できない結果だと思う。確かに価値のある試合ではあったけれど、局面局面を見ていくとワセダはもっとできた。準備してきたことは概ね出せたけれど、勝負所でそれが出せなかったり、出ると思っていた形のブレイクダウンでボールがでなかったりした。特に後半35分のラインアウトからのアタックは、ああいう展開、あの場面で使うために用意してあったスペシャルサインプレーだから(うまく仕掛けられなかったことに)悔いが残る。何度も対戦している相手であれば、ハイスコアで取り合う展開でもいいけれど、力が上の相手とのこのような一発勝負では僅差でしか勝てないと判断し、あのようなゲームプランにした。昨年のリコー戦も自らゲームを崩してしまったので、同じ失敗をしないようにと。今日のゲームは来シーズンへのいい収穫。これからまた新しいワセダを創る」

<1年間ワセダのすべてを背負って戦い抜いた主将・大田尾竜彦>
「大学選手権で負けた後、日本選手権で勝てるようにハードなトレーニングを積んできた。これまではテスト期間で練習にも人がなかなか集まらなかったけど、今年は本気で行くぞとみんなで話して、メンバーを欠くことなくいい練習ができた。毎週試合があるつもりでフィットネスもしっかりやった。負けてしまって悔しいけれど、大学生でも社会人に本気で挑戦できるんだということを示せた一戦だったと思う。多くの観客の前でプレーできる幸せも改めて感じる試合だった。最後に用意してきたプレーができなくて残念。後半35分に今村がターンオーバーされたプレーはもっと整備したプレーを用意していた。本来は隆道がラインにいるはずだったけれど、治療して戻りきる前に始まってしまった。スペシャルサインプレーだっただけに残念。あそこは準備していた通り隆道を入れたかった。相手の足が止まっていたように、今日はフィットネスでも全然負けてなかった。ただ、安定すると思っていたスクラムでプレッシャーを懸けられて、うまくアタックができなかったし、ちょっと予想していなかったことが多かった。接点は予想の範疇。過去2年の経験、サントリーとの練習であれくらいできるとは思っていた。ディフェンスではとにかくティポキ選手、三木選手と走り合いをしたら勝てないと思って、外を捨ててでもCTBにプレッシャーを懸けようと。ボールを持たせないという意図通りのディフェンスができた。モールでやられてしまったのは悔しいけれど、準備してきたことは出せたと思う。今年は若い選手が多かったけれど、それは初めから彼等がよかったのではなくて、可能性のある奴に懸けたというところ。一緒にやっていくうちに色々なことを吸収しているのが分かった。まだまだ可能性のあるから、この伸びを止めないで欲しい。ここで終わるワセダではなくて、常勝ワセダを作って欲しい。試合後の円陣で話したのは、最後のゴール前でのディフェンス。3点差を追いかけているチームのディフェンスではなかった。あの場面はもっと激しくいかないといけなかった。全体の感覚としてはトップリーグとも全然やれるけれど、本気で勝つには社会人チームともっと試合をすることが大事だとも思う。今日もどうしても対戦するまで不安な気持ちもあったので。日本で一番愛されているチームで3年間ラグビーができたこと、最後の1年キャプテンとして多くの方に支えてもらい、ここまでこれたことを幸せに感じる。今日もファンの方の声援が力になった。昨日も感慨深いものがあったし、やっぱりワセダっていいなと改めて思いました。すべての人に感謝したいです」


<自らのプレーを悔やむ副将・川上力也>
「今日は勝てる試合だった。最後のところの集中力と接点の激しさが足りなかった。関東との決勝とも通じるところ。ワールドは踏ん張りきれて、ワセダは逆にダメだった。ただそれは必ず埋められるものだと思う。組織の中でどう動くかも大事だけれど、最後はひとりの人間と人間の勝負。そこで後手を踏んでしまった。勝負を懸けた最後の場面、今村がターンオーバーされて、モールで取られたあのプレーは僕が気を使えていればなかったもの。ゴール前のモールでもタックルを外されてしまったし、みんなはがんばったけれど、自分のプレーには悔いが残る。ワセダのフランカーとして大事なことのひとつが気を利かすこと。最後の最後でそれができず、ワセダでの4年間を出し切ることができなかった。僕らは弱いワセダを知る最後の代。まだまだ足りないかも知れないけれど、それを知っている最後の代として、泥臭さやひたむきさというワセダらしさを下に伝えることはできたと思う。最後まで出し切りたかったけれど、今日は少し悔いが残る。ただ後輩に気の利く選手が出てきてくれると思うし、4年生もチームの中心になってくれそうなので、来年は期待している。後輩たちはやってくれると思います」


<激動の4年間 すべてを出し切ったWTB吉永将宏>
「自分自身としてはすべてを出し切った。ディフェンスでも今までにないくらいタックルにいけたし、悔いはない。ワールドには悪いけれど、絡みもそんなに強くなかったし、ボールを持ったらスルスルと前に出られたから、最後まで勝てると思ってた。無我夢中で、パッと時計を見たら後半40分で試合が終わった。差も感じることはなかった。ただ、ティポキは別格。あんなキレキレの奴初めて見たし、腕にタトゥーが入っていてビビッた(笑)。今日、僕は幸せ者だと改めて思った。同期の仲間、先輩、後輩、監督、コーチ、スタッフ、そして両親。ここまで自分を支えてくれたすべての人に感謝したい。そういう人たちのお陰で自分はここまでがんばれた。今日でスッキリした。4年間常に思っていたのは、負けると思った時点で終わりだということ。あいつはすごいとかあのチームには勝てないとか思った時点で負け。僕は1年の時から実力もないのに、竜彦や加藤かいに対してライバル意識むき出しで必死にやってきた。2年、3年の時もずっと俺じゃなくて何で山岡なんだと思って練習してきた。それでテンションも上がったし、自分を高めることができた。今のワセダは推薦で入ってくる選手も増えたけれど、浪人して入ってきた奴らも熱い気持ち持っているから、誇りを持ってがんばってほしい。自分も浪人して入ってきたから、そういう選手に出てきてもらいたい。今日ですべて出し切った。悔いはない。試合後には山岡とも胸を張って握手することができた」


<4年生の最後に涙を浮かべたロック桑江崇行>
「コンタクト、タックル、アタック、どれも負けてなかった。負けていたのは重さを生かしたモールだけ。リザーブを入れてきたことからも分かるように、途中から相手は走れなくなっていた。あと一息という感じ。モールはしんどかった。大学生相手には問題ないけれど、社会人相手に勝つにはもっとうまくやらないと厳しい。球際、球の生かし方もうまかったけれど、試合中も全然いけると思っていた。むしろワセダが勝ってた。清宮さんが言っていた通り、BKが全然出てこないから、今村や吉永さんがどんどん前に出てくれた。FWがしっかり守って、ターンオーバーすれば一発でトライが取れると思っていた。スクラムはやっぱり重かった。プロップが強いからやられるとかでなく、後ろの重みで押せない感じ。来年はこのレベルのチームに勝てると思う。4年生とは同い年なので、泣いてしまいました。寂しいです」

<鍛錬での覇権奪回を誓うSH後藤翔太>
「必死になってラグビーができてよかった。真剣に相手に立ち向かって五分の勝負ができた。結果として負けてしまったけれど、満足できる面もあった。大学選手権決勝で途中交替させられた経験が生きている。どんな経験でも生かして次につなげていくことが大事だと思うし、そうしなければダメだと思う。自分のこれからに生きるいい経験をさせてもらった。とにかく練習して来年につなげたい。今日は我慢して一発という展開だった。この一週間でボール継続のスキルが飛躍的に上がったのが、よかったと思う。これは来シーズンにもつながる。相手は接点でのかましが強かった。そこがこれまでのチームと違うとこ。今日は4年生が来年につながるいい物を残してくれた。来シーズンはこれを受け継いで大学選手権を取り返すだけ。勝つこと以外考えられない。とにかくたくさん練習して覇権を取り返します」


<在学中の打倒トップリーグを誓うNO8佐々木隆道>
「今日は楽しかった。自分のプレーができたというか、今できることをやったら、通じなかったという感じ。部分部分で通じていたところもあるけれど、まだ厳しいかなと。今日は最後まで喰らいついていくというゲームプランだったから、やっていて勝てると思っていた。負けてしまったのは僕のせいです。スクラムからの捌きとか、勝負所でミスをしてしまったし…。チームとして足りなかったのは何ですかね。個人個人のパワーだけですかね、足りなかったのは。今日で竜彦さんとプレーするのは最後だけれど、これからもずっと追いかけていきます。ワセダで一緒にプレーするのは最後だけれど、またどっかでやるでしょう。社会人なり代表で。今度は竜彦さんと敵としてやるのもいいかなと。来シーズンへの財産は、4年生の力を思い知らされたこと。僕が在学中にトップリーグのチームを倒せると思いますよ。清宮さんに付いていけば間違いなく勝てる。そのくらい信頼していますから」

<『大田尾組』ベストトライ>