想いのこもる万雷の拍手のなか、山中亮平の目には光るものがあった。有田隆平はそれを満面の笑みで出迎えた。2010年11月3日、神宮外苑が熱く燃えた文化の日の帝京大戦。ツートップによる熱き抱擁は、このゲームが持つ意味の大きさを物語っていた。今を生き続けてきたワセダが手にしたもの。「僕のなかで、今日勝つことがスタートラインだったんです。昨年途中交代したことがずっとトラウマで、緊張もあって、不安もあって…。でも、これで僕もチームも変わっていける。今日はいいプレーができて、勝つことができて、これでやっとスタートラインに立てました」(副将・山中亮平)―
この日は入りからこれぞ帝京戦!と言うべきタイトなゲーム。ひとつひとつのプレーに漲る重厚感、互いに相手の自由を奪いにかかる一手、出入りの激しさのなかにどこか閉塞感も漂い、秩父宮は何とも言えない緊張感に包まれた。出だしの10分に訪れたビッグチャンスを逃し、みすみす主導権を手放すと、25分にはモールで失点。35分、試合を通じて再三ディフェンスを崩したSO山中亮平、FB井口剛志のホットライン→フランカー中村拓樹4年の意地で、すぐさま追いつくも、均衡するスコアだけを見れば…、帝京の思惑どおり。
しかし、この日のワセダには確固たる信念、コアとなるものがしっかりあった。それがチームを支えていた。「ワセダはディフェンスで勝つチーム」。前半、執拗に近場をこじ開けにくる大男たちに対して、FWが魂込めて、体を張って、必死の応戦。BKも前に出るだけでなく、気合いのバッキングで最後の一線を守り抜き、あとは「爆発」を待つだけだった。
そして、7-7で迎えた後半。ついに貯め込んできた想いが結実する。5分、ライン際をしぶとく守り、相手を外に押し出すと、少しのためらいもなくクイックスロー。さも用意されたセットアタックかのように美しくラインが作られ、最後はCTB坂井克行が度肝を抜くワンステップ。相手の隙に全員が反応したワセダらしさ全開のカウンターパンチで、一気に流れを引き寄せた。「絶対に来ると思いました。CTBが前に出ないとゲームは動かせないですし、流れを持ってこれない。ゲームを作るのはCTBだというのが、この4年間教わってきたこと。一番体張ろうって」(CTB坂井克行)。
このトライで火がつくと、あとは自分たちで掲げた勝利の方程式をこれでもかと体現。18分、WTB中靍隆彰のドンピシャタックルからFB井口、CTB坂井を経由し、これまたこの一戦に強い想いを持っていたWTB中濱寛造。39分、前に出続けられたところを粘り強く守り、田邊秀樹・村田大志の両CTB+フランカー金正奎が首尾よく反応しての切り返し。ディフェンスを楽しめるチームに、体を張ることに喜びを感じるチームに。まさに思い描いていたとおりのストーリー。「口にしてきたプライドの部分、めちゃくちゃよかったと思います。1:1もしっかり戦えていましたし。ブレイクダウンも清宮さんに、ノーファイトだと指摘されてから変わることができました」(主将・有田隆平)。足を止めることなく、躍動し続ける姿には、『有田組』の歩んできた道、成長が詰まっていた。それらを導き出したのは、間違いなくこのふたり…。忌まわしき過去を振り払うように堂々としたプレーを見せた山中亮平。会場入り前、バスの中から眺めた神宮の大行列にビッグリ仰天、「あれだけ人が集まるのかと、ちょっと凹んだ」と口にしながら、ラグビーの魅力を存分に見せた有田隆平。ワセダは『ハンカチ王子』だけじゃない!ラグビー部のリーダーも、やっぱり何かを持っています。
もちろん、大枠から細部まで、変わらなくてはいけないこと、成すべきことはまだまだある。屈強な帝京と戦ったからこそ感じられたことも、たくさんあった。ひとつの山を越えても、ワセダとして進むべき道、目の前の戦いにすべてを懸ける姿勢に変わりはない。「今日できたことが、次できないというのはおかしいので、まずディフェンス、ブレイクダウンに拘るところから。目の前の戦いだけで慶應のことは見ていなかったので、これからじっくり見て、また明日からは早慶戦モードでいきます!」(主将・有田隆平)。ついにやってくる11月23日。ラグビーにしかない魂の揺さぶりを! ワセダには、果たすべき責務がある―
<シーズンベスト! 改めてワセダのプライドを口にする主将・有田隆平>
「今日はディフェンスから組み立てようと言っていたなかで、ターンオーバーからのトライが多かったのはよかったです。ブレイクダウンも越えにいく意識がありましたし、強い帝京相手にそれができたのは、すごくいいと思います。手応えを感じたのは…、ディフェンスもそうですが、ブレイクダウンです。一昨年などは、大外のブレイクダウンで負けましたし、今日も帝京がそこに懸けてくると覚悟していたので、これだけ戦えたらいけるなと。15人、ひとりひとりがすごくファイトしていて、ターンオーバーもできて。清宮さんにブレイクダウンでノーファイトだと指摘されてから(筑波戦後)変わることができました。<以上記者会見> プライドの部分、めちゃくちゃよかったと思います。1:1も戦えていましたし、何か…よかったです(笑)。昨日のミーティングから緊張感を持っていこうと話していたんですけど、今日はアップからいい緊張感、いい雰囲気、感じるものがありました。今日の試合が持つ意味は…、自信じゃないですかね。それが一番大きいです。帝京に勝てたからといって、次も勝てる訳ではないですし、これまでどおり、目の前の戦いひとつひとつというのは変わらないんですけど、次に繋がる自信は得られました。ひとつの山を越えたって。今日はディフェンスとブレイクダウンの勝利です。今日帝京と戦って感じたことは、やっぱりFWに決定力のある相手にペナルティをしてしまうと、辛くなるということ。この先は、その部分がもっともっと大切になってくると思います。あとは取りきる力。帝京のディフェンスがよかったというのもありますけど、そこはもっともっと高めていかなくてはいけません。後半のクイックスローは、誰もが行くだろうと。帝京ペースの試合はしたくなかったですし、攻めるのがワセダですから。山中の涙ですか?、今日は責任感、プライド、意地というのをすごく感じました。すごく引っ張ってもらいましたし、このゲームを作ってくれたひとりです。自身のプレーについては…、まぁ、ハイ…(笑)。坂井とかすごいプレーしてたので、自分もああなりたいですね。今日はFWの成長を実感しました。モールで取りたかったというのはありますけど、スクラムも想像以上に安定していましたし、日々進化してるなと。NECさんに感謝です。今日も権丈さんが来ているのが分かりましたし(笑)、成果が出たと思います。次は早慶戦。今日できたことが、次できないというのはおかしいので、まずディフェンス、ブレイクダウンに拘ること。20日ですか。目の前の戦いだけで慶應のことは見ていなかったので、じっくり見て、また明日からは早慶戦モードでいきます!」
<涙の勝利! 忌まわしき過去からついに決別を果たした副将・山中亮平>
「試合後の涙の意味は…、僕のなかでは今日帝京に勝つことがスタートだと思っていたので。これでやっとスタートラインに立てたって。試合の内容については、思い通りにゲームをコントロールできましたし、最初はミス、ペナルティがありましたけど、ディフェンスからゲームを組み立てられていてよかったと思います。今日はディフェンスの勝利です。ずっと前に出続けて、ターンオーバーからのトライもできて、思っていたとおりにできました。前半に関しては、僕も緊張しましたし、みんな気負った部分があって、硬かったという感じです。フォローもしっかりあって、いいアタックができましたし、意図通りのアタックもありましたけど、もっともっとレベルアップできる、しなくてはいけないとも感じました。今日で僕自身も、チームとしても、また変わっていけると思います。昨年(大学選手権)は途中で交代して、それがずっとトラウマだったというか、今日も緊張、どこかに不安もあって…。でも、今日はそういったところも出ず、いいプレーで勝つことができて、リベンジを果たして、スッキリしました。慶應は強いですし、ディフェンスもすごくいいので、しっかりと対策を立ててやっていきます。西橋、よかったですね(笑)。ああいう状況から出ても、小さくならず、大きなプレーをしてくれて、いい判断があって。隆平に関しては、もうプレーで引っ張ってくれて、ディフェンスにいくあの姿を見たら、みんな乗りますよ。これからも頼りにしてます」
<日々進化! FWの核として奮闘したロック中田英里>
「まだまだ次の試合がありますけど、ひとまず勝つことができて純粋に嬉しいです。試合前はスクラムが一番のカギになると思ってました。そこでどれだけ戦えるか。前半は帝京の強さ、うまさでペナルティを取られたところもありましたけど、後半は修正できたと思います。前半に関しては、最初の10分のチャンスで取りきれなかったのが大きかったです。そこが停滞の要因。FWとしては、モールで取られてしまったのは反省ですけど、その後のショートサイドで拘りを見せられたのは、この先にむけてよかったなと。ブレイクダウンは相手が大きい分、人数で勝つ。今日はその意識を誰もが持って、集散がよかったですし、相手の人数が少ないところで何人も越えていって、それが試合を決定づけたと思います。ワセダはやっぱりディフェンスで勝つチーム。今日はその意識が結果に結びつきました。今日帝京と試合をして感じたのは、やっぱりスクラムの部分です。明治も東海も強いと思うので、いかにBKにいい球を出せるか。BKを生かすことを、さらに深く考えてやっていきます。早慶戦は、個人的に2年前にやられているので、その借りを返すことと、伝統を楽しんでプレーしたいです」
<圧倒的な存在感! チームに芯を通し続けたCTB坂井克行>
「まず、昨年負けた相手に勝つことができてよかったです。復讐する機会は今日しかないと思っていましたから。今日はディフェンスがかなりよくて、しっかりとワセダの前に出るラグビーができたと思います。ファーストタックルの精度はもっともっと上げていかなくてはいけませんが…。BKのディフェンスに関しては、1:1のところでしっかり体を当てても弾かれているところがあったので、そこでもっとタックルできるようになれば、もっと楽になってくるだろうと。今日はとにかくFWのおかげです。そこに尽きます。トライの場面は、絶対に来ると思いました。ボールを入れようとしていたのが井口だったので。隆平に放ってと言ったら、いいパスくれました(笑)。CTBが前に出ないとゲームは動かせないですし、流れを持ってこれない。やっぱりゲームを作るのはCTBだというのが、この4年間教わってきたことなので、一番体張ることを意識してます。今日の勝ちは自信に繋がると思いますけど、一方で自分たちはもっともっとできると感じました。まだまだいけると思えた試合です。ワセダとして、次の慶應にも絶対に負けられません。そういった緊張感のなかで、いつもどおり自分らしいプレーができればと思います」
<NEC練の成果抜群? ひとつの壁を乗り越えたプロップ上田竜太郎>
「ホント勝ててよかったです…。今日は緊張もありましたけど、これまでの練習での調子もよかったので、とにかくいつもどおりの力を出そうと。NEC練がよかったんだと思います。スクラムを振り返ると…、いい感じのところもありましたし、まだ3番に喰い込まれてしまうようなところもありましたし、次はもっとしっかり組みたいという感じです。今日は最低限はやれたのかなと思います。ショートサイドについては、絶対来るだろうと思ってましたし、そこを逆に跳ね返して帝京の強みを消してやろうって。いい形でディフェンスできたと思います。一敗も許されないのがワセダ、勝ち続けるのがワセダ。今日はその意味でいい試合でした。次の早慶戦ではしっかりとスクラムでプレッシャーを懸けたいです」
<ワセダはディフェンス! 想いを体現した学生たちを称える辻監督>
「今日はありがとうございました。今週は帝京に何で勝つのか、ディフェンスとタックルだろうと言い続けてやってきて、それを学生たちが体現してくれました。トライのほとんどがターンオーバーからのもの。前半大きなFW相手にしっかり戦ってくれましたし、80分最後までやりとおしてくれたと思います。帝京さんはディフェンスが強いですし、用意したプレーでトライが取れるとは思っていませんでした。決勝など、競った試合になれば、日本でも世界でも、準備したプレーで取るということは少ない。偶発的なところから、ターンオーバーからが多いと頭に入っていたので、セットアタックで、フェーズアタックでトライを取っていないことは気にしていません。ラインアウトに関しては…、取れなかったところもありましたけど、帝京さんもしっかり分析していたでしょうし、そこまで気にはなりませんでした。スクラムは若い一列がよくがんばってくれたと思います。先日NECに押されて、ここからまた強くなろうって。NECには感謝です。スクラムは途中押していましたよね? 素晴らしかったと思います。もちろん、今日勝てたことは嬉しいですけど、有田ともあくまで今年は目の前の戦いに全力を尽くそうと言ってきて、実際そうきています。どの試合に勝って乗るとかではなく、まず次の早慶戦をがんばるという気持ちです。次の試合(慶明戦)ですか?もちろん見ます(笑)。今日感じた学生の変化は…、接点に強くなったなということと、ディフェンスにしろ淡泊でなくなったということです」
前半
14分 帝京 正面25mPG・13失敗
25分 帝京 22m内LO→モールから7がサイドを突いてトライ G成功 0-7
33分 早大 10mLO→順目ラック→9・10・15裏に抜けて中村トライ G山中成功 7-7
後半
5分 早大 LOハリ入れ→7・11・8・坂井が大外を抜いてトライ G山中成功 14-7
12分 帝京 SH裏キックをカウンターで切り返されトライ G成功 14-14
15分 早大 22m内LO→11ゲイン→20・10キックパスで中靍トライ G山中成功 21-14