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【監督インタビュー】関東大学対抗戦グループを終えて

2016.12.17
【監督インタビュー】関東大学対抗戦グループを終えて
 
関東大学対抗戦グループの帝京大学戦で、想像以上の点差で大敗した早稲田大学ラグビー蹴球部。応援する多くの人々が、このままで大丈夫かと不安を募らせている中、慶應義塾大学戦を25対23、続く明治大学戦を24対22と、いずれも薄氷を踏むような勝利で連勝。
このグループの順位を2位として、全国大学ラグビーフットボール選手権大会ではシードを獲得し、準々決勝にコマを進めた早稲田。
思わぬ大敗からチーム全体が沈むことなく、むしろ連勝に導いたのは何だったのか。
この春からチームとしてぶれずに一貫して取り組んできた改革について、日本経済新聞編集局運動部の谷口誠記者に依頼し、山下監督にインタビューしてもらいました。
(聞き手:日本経済新聞社 編集局運動部 谷口誠記者)
 

【12月4日(日)明治大学戦の試合前ウォーミングアップを見守る山下監督】
 
Q:監督に就任した直後に、グラウンドの外で様々な改革を打ち出しました。その狙いを改めて教えてください。
A:就任して最初にライバル校を分析した結果、今のままの早稲田だと絶対に太刀打ちできないという認識を持つようになりました。勝利を達成するために、グラウンドの内外の環境を整え、クラブのビジネスモデル自体を刷新しなければいけないと考えました。我々には「ラグビーを通じて世の中に希望と感動を与える」というミッション、存在意義があります。そのためには日本一を達成しなければいけない。日本一を達成するためには環境を整備しなければいけません。
 
Q:2001~05年度の清宮克幸監督時代は、環境面で他校をリードしていましたね。
A:あのときは環境を整備して日本一になりましたが、成功したそのときのビジネスモデルのまま、変えずに現在まで来てしまいました。その間、大学の全面的なサポートを受けて強化をするチームが増えました。帝京、東海、明治が台頭し、早稲田は追い越されました。
早稲田のラグビー部は非常にポテンシャルのあるクラブと自負しています。大学からサポートはしてもらっていますが、いろんな方と一緒に勝利に向かって歩むため、外部の協力をあおぐことにしました。いただいたお金やサポートは、強化に直結させるために使わせてもらっています。
 
Q:アシックスとのパートナーシップによってどんな効果が出ていますか。
A:提供を受ける製品の質と量がともに増しました。例えば、スクラムではスパイクを通して地面に力を伝えられている感覚がある。スポーツ科学の面でもサポートをもらっています。アシックスのスポーツ工学研究所で南アフリカやオーストラリアのトップ選手と同じ測定を部員に行ってもらっています。スピードや筋瞬発力、筋持久力など約10項目で、我々はフィードバックを受けている。アシックスさんには、この年代の日本人の足の動かし方を製品開発にも生かしてもらっています。
 
Q:アシックスが南アフリカやオーストラリアの代表チームのサポートもしていることは、部員にもいい刺激になるのではないですか。
A:アシックスが世界的な企業だということは部員のモチベーションになっています。東京五輪のゴールドパートナーでもある日本のトップ企業と一緒に歩めることは、スポーツ界の中での早稲田の立ち位置を勉強させてもらえるいい機会になっています。グラウンドのポールのカバーなどもワールドカップ規格のものを提供してもらっており、部のミッションやゴールを選手に強く意識させる効果があります。今回の提携は尾山基社長と直接やらせてもらっていることも大きいです。大学スポーツの産業化という点でもご教授してもらっています。
アシックスさんとしても、学生に早慶戦を楽しんでもらうということが訴求点としてあるので、早慶戦などでフラッグ配布などのプロモーションをしてもらいました。試合の観客の入り具合やテレビでの露出の状況を見て、お互いにパートナーシップの価値を認識する機会にもなりました。品川のアシックスショップでも1カ月間、早慶戦を盛り上げるために早稲田ラグビー部コーナーを設けていただいた。学内に直営ショップも出してもらった。レプリカジャージーを中心に非常に売れています。

【11月22日(火)慶應義塾大学戦前日、独特な緊張感の中に佇むアシックスロゴ入りポールカバー】
 
 
Q:新潟県との提携はどのような効果が出ていますか。
A:新潟県からはお米を年間30トン分いただいている。しかも「新之助」というブランド米で非常においしいので、選手の食欲が進み、いい体ができてきた。普段から「練習と休息と栄養がしっかりできるのが早稲田の選手」だと部員に強く言っている。トップチームの選手の除脂肪体重は昨年と比べて平均で6キロ、FWだけなら7キロ増えた。しかも体脂肪率は下がっている。80分間の耐久力も上がった気がします。
 
Q:様々な企業とのパートナーシップにより、部の予算はどれくらい上がりましたか。
A:昨年よりほぼ倍増の額になりました。まだ多い学校の数分の1だと思いますが。
 
Q:そのお金をどのように投資しているのですか。
A:合宿の質と内容を高めました。当たり前のことですが、コーチ陣の人件費や選手の栄養費にも使っています。フルタイムのスタッフは昨年の4人から11人に増やしました。部員の数からするとまだまだ足りないですが。各部門がユニットとしてしっかり機能するためには人手が掛かるので、今後は学生がどう関わっていくかも大事になる。クラブのマネジメントや、ストレングス&コンディショニングなどにももっと学生にやってもらうことが増えるかもしれない。早稲田の中で自分がこう関われば、こうなると分かって卒業してほしい。

【8月3日から10日まで実施した北海道網走市での合宿風景】
 
Q:優秀な部員を獲得するための、スポーツ推薦枠は今後どうしていきますか。
A:スポーツ推薦の枠は現在、年間3人ですが、来春入学の学生から4人に増えます。他校では、1年に30人程度を何らかの優遇措置で取っているケースもある。清宮さんの監督時代は推薦枠が今より多く、人材獲得でも他校をリードしていました。勝つためには、最終的に選手のポテンシャルが大事になってくる。これからも推薦枠を増やしてもらうように、結果を出して大学にアピールしていきたいです。
 
Q:早稲田大学の大学院スポーツ科学研究科の修士論文では、ラグビー部の課題として、附属校、系列校の選手育成の必要性を指摘されていていました。具体的にどのような手を打っていますか。
A:ラグビー部としては、全国の高校にいる各年代のトップ選手をスポーツ推薦枠の中で取るのが絶対条件になります。その枠以外の選手は入試があるので、系列校の選手をどう入学させるかも大事になってきます。現在、うちのラグビー部に早稲田実業の卒業生は1学年7~8人います。そのため、ストレングス・アンド・コンディショニングのコーチを我々が雇って早実にフルタイムで派遣しています。体づくりを7カ年、10カ年の計画でやっていきたいです。体ができている選手はアドバンテージがあるので、そういう学生を入れたいですね。
 
Q:グラウンド外での取り組みについて、今後の中長期的な計画はどう考えていますか。
A:パートナー企業をどんどん増やしていきたいと思っています。自分達でいろいろな活動をして、資金を生み出すことも視野に入れながらやっていきたい。勝利、普及、資金がうまく循環するビジネスモデルをつくっていこうとしています。大学スポーツや、その産業化を引っぱっていけるキラーコンテンツになっていきたいです。
 
Q:そのための何か具体的な構想はありますか。
A:大学とコンセンサスを取って、上井草のグラウンドでも主催試合を開き、パートナー企業と共同でアクティベーションをやりたいです。対抗戦の開催も視野に入れながら、まずは春シーズンなどに試験的に取り組む。2019年ワールドカップ日本大会に合わせて主催しようとしているワールド・ユニバーシティー・チャンピオンシップもあります。
 
Q:日本の大学スポーツは、ホームスタジアムやホームアリーナを持たないことが課題になっています。上井草にも観客用のスタンドはほとんどありません。
A:上井草は非常にいいロケーションなので、クラブとしてホームスタジアムという考えでやっていかないといけません。スタンドの建設はまだ検討事項ですが、スタンドがないなりにも見せ方はある。お客さんに来てもらって、ラグビーをメーンイベントにして楽しんでもらうだけでなく、関連したアクティべーションをしていく。アシックスや、ジャージーのデザインをお願いしたnendoと一緒に、楽しいと思ってもらえるものにする。産学一体のスポーツビジネスの取り組みをやっていきます。
 
Q:今後は部の収入規模でも日本一を目指しますか。
A:大学スポーツはスポーツビジネスでもあるので、そこを狙わないと言っているうちはだめでしょう。予算の規模と、その質にもこだわっていきます。
 
Q:就任当初の見通しと比べ、選手やチームの成長具合はどう評価していますか。
A:当初のロードマップ通りに来ています。早慶戦、早明戦でステップアップするというのも予定通り。敗れた帝京戦では、考え方を含めた戦い方に難がありました。悪い意味で真っ向勝負をし過ぎた。もっと賢く戦わなければいけませんでした。ボールをキープしてアグレッシブに行こうとしましたが、アタックの精度が低く、相手の強みを出させてしまいました。サインプレーの指示なども大ざっぱ過ぎました。その結果、自分達の強みが弱く映ってしまった。帝京の方が我々をよく分析しており、自分達の根本である、コンタクトの激しさに原点回帰してきました。帝京の一戦に掛ける執念は、勉強になるものがありました。
ただ、帝京は戦術的には若干かわしてきました。夏合宿から早稲田が力を入れてきたディフェンスのブレイクダウンの力を認めてもらったからでしょう。試合後、早稲田の選手は「フィジカルコンタクトは去年より全然楽だった」と言っていました。ブレイクダウンでのターンオーバーも早稲田の方が多かった。そういうのも踏まえて、うちはシーズンのストーリーを持っています。
 
Q:ディフェンスでは今年、ダブルタックルを重視していますが、その成長度合いはいかがですか。
A:ダブルタックルの割合は去年の平均17%から、今年は毎試合32~33%を越えています。ただ、この数字だけを見ていてはいけません。うちはダブルタックルのことを「フォーピット」と言っている。ピットはフランス語と英語を組み合わせた造語です。2人が4本の足を動かし続けるということが大事という意味です。ブレイクダウンも含めて足をかき続けなくてはいけない。バインドしているだけではダメです。
 
Q:フルタイムのコーチ陣には、レスリングやスプリントの指導者も加えました。その成果は出ていますか。
A:レスリングに関して言えば、春は週に3度、1時間ほど練習に取り入れていました。その結果、体の使い方が上手になりました。タックルなどで相手にヒットする時に、足を近づけて踏み込めるようになりました。これからもっともっと良くしていきたい。レスリングの練習をラグビーに近づけ過ぎると、もともとのレスリングの良さがなくなるかもしれないと思っています。レスリングの練習を極めて、それをラグビーに取り入れる形にしたほうがいいかもしれないですね。
 
Q:レスリングは、ヤマハ発動機で同様の練習を取り入れている清宮さんを参考にしているんでしょうか。
A:参考にしているところはありますね。
 
Q:スプリントのトレーニングはエディー・ジョーンズ・ヘッドコーチ時代の日本代表を参考にしていますか。
A:参考にしているのは、エディー・ジャパンというより、エディー・イングランドですね。イングランド代表の特にディフェンスラインの前に出るスピードと、ブレイクダウンでの見極めの良さです。サインプレーの組み立てにストーリーがあるところもいいですね。
春にイングランドのディフェンスを意識して選手にやらせたら、難しすぎたところがありました。逆に、ディフェンスラインの間隔の取り方を意識させると、選手同士が手をつなぐようになってしまったりもしました。選手に求めていいところと求め過ぎちゃいけないところがあります。大事なことはずっと言い聞かせなきゃいけないし、そのへんも勉強になっていますね。
 
Q:同じく今年、力を入れているスクラムは非常に強くなりました。その理由は何ですか。
A:早稲田のスクラムが満たすべき条件を3項目、設定しました。例えば、「16本の足で押す」ということです。地面をしっかり捉えるために、1人が片方の足でも上げてはいけません。そして、その条件を満たすために、練習で掛ける量と時間を徹底しました。また、トップリーグでも首位に立つヤマハの清宮さんや長谷川慎さんにご指導いただいています。帝京大以降にアップデートしてまた良くなりました。去年まではこんなにスクラムトライは取っていないし、スクラムでペナルティーを獲得した回数も増えている。今、選手はスクラムをいとおしく思っていると思います。

【11月12日(土)ヤマハ戦の試合後、早稲田のスクラムの指導をする清宮監督と伊藤コーチ】
 
Q:体力トレーニングの時、あらかじめ決められた線を踏む、踏まないにも厳しくこだわって指導していると聞きました。そのことでチームにどんな効果が出ていますか。

A:早稲田のラグビー部は、マナーに反することをする人間は見逃さない、ここはそういうところだよという雰囲気をつくるために、線を踏む踏まないというところにもこだわりました。当たり前のことなのであまり偉そうにいいたくはないのですが。練習中に空気を読めない選手は、試合中も空気を読めないプレーをしてしまうものなんです。例えば、外でフォワードがスクラム練習している時に、屋内でストレングスのトレーニングをしているバックスが音楽を大音量でかけるのがいいことなのでしょうか。選手はそこらへんを読めるようにならないといけません。ルールは破ってしまうこともあるかもしれませんが、チームのマナーは守ろうということです。

 
Q:いよいよ12月17日から大学選手権に出場します。
A:日本一奪還に向けて、そのために次の同志社戦に全てをかけます。あとはどんなエピローグにしたいかということです。今年、チームの強みにしてきたところをもっともっと強固にしていきます。伸びしろはまだたくさんあります。もっと上げていけるところもあります。勝つことで我々のビジネスモデルが普及していけば、日本の大学スポーツの発展にも寄与できると考えています。
(終了)