ノーサイドから30分。慶大の要のひとりは事も無げに、あまりにサラリと言っていた。「昨年と違って、ワセダは全然強くない」…。心に沁みる、絶対に耳をそむけてはいけないこの言葉。「ワセダ、ツヨクナイ」。『永遠のライバル』が肌で感じたその思いは、『東条組』の現状をハッキリと表していた。
動き出しの一歩が遅い、なのに走らないで歩く。ディフェンスで下がる、いつまでもターンオーバーできない。アタックはバラバラですぐ倒れてしまう、当然ボールを失い続ける。セットはノープレッシャー、言うに及ばず―。いずれも『赤黒の当たり前』を反古にする、あまりに悲しい惨状…。こんなチームが強いわけもなく、日本一へ突き抜けるはずだった80分は、ただただ歯がゆいものだった。もちろん、それを1番感じているのはフィールドに立っていた選手自身。「関東に勝ったからといって、自分たちは強いなんて思ってもない。これが今の自分たちの実力です…」(ゲームキャプテン・後藤彰友)
とにかく走らない、走れない―。「やらなくてはいけないこと盛りだくさん」(SH矢富勇毅)の中でも、特に深刻だったのが『動き出しの1歩』の遅さ。裏に蹴られればみんなが歩き、生命線・ディフェンスのセットは最後まで穴だらけ。他を圧倒し続けたボールのないところでの動き、ここで勝つ・『スウィフトラグビー』の概念は一体どこへ…。連日の追い込みで体が動かなかったのも恐らくは事実(これだけの状況で学生が試合に臨んだのは恐らく初めて…)。けど、心身ともに追い込まれた状況、局面でこそ走るのが、『赤黒の当たり前』、アイデンティティでもあったはず。「1番がんばるべきところでがんばれていない…」(ゲームキャプテン・後藤彰友)。「追い込まれた状況でこそ、その選手の真価が問われる…」(中竹監督)。僅か6日前、『恐怖』に打つ勝つ精神力はあっても、追い込まれた状況を乗り越える『本当の強さ』は、このチームには備わっていなかった。
しかしそれでも、「ほぼ全員が最低のプレーをした、あってはいけないゲーム」でも、最後に勝利を掴むことができたのは(9点ビハインドの後半28分、相手キックミスのカウンターからFB五郎丸がライン際で5人抜き。35分ラインアウトからのムーブでフランカー豊田が4人を交わし逆転)、日本一・『荒ぶる』への揺ぎ無き意志があればこそ。「負けるなんて少しも思わなかった。最後まで逆転できる、絶対に勝つんだって…」(プロップ・瀧澤直)。負けたらシーズンが終わっていたであろう「最低のゲーム」を、土壇場でひっくり返すその芯の強さ、諦めの悪さだけは失われていなかった。
『荒ぶる』への意志はこれっぽっちも揺るがない。課題は山ほど噴出した。ムラの消えない現状は痛いほどよく分かった。1次から大外で何となくゲインを許し続けたディフェンスは修正可能(慶大はまるで昨年のワセダのコピーかというようなアタック…)。アタックの意思統一、フェーズでの拘りもこれから。とにもかくにも、今すぐに、明日にでも改善しなければならないのは生命線・『動き出しの一歩』。下のチームはできているのに、赤黒がやらないなんてありえない。歩きまくっているのは、絶対に許してはいけない。こここそ、意識でいくらでも変えられるところ。事実、最後の10分はできていた。絶対にできる。絶対に強くなる。『俺たちはワセダ』。11月23日、もう「強くない」とは言わせない―
<ムラのないチームへ 現状を把握し次を見据える中竹監督>
「まず勝てたことは大きい。この試合の成果はそれだけ。今日あのまま負けていたのと勝つのでは、反省の仕方が全然違ってくる。前までは負けていても、いつか勝てる勝てると思ってて、そのまま終わっていたけれど、今日は焦らず、我慢することができた。こういう試合になってしまった要因はセットからのディフェンス。セットの安定自体も含めて。いいスクラムを組まれてしまったし、ラインアウトも取られて、ノープレッシャーだった。それで相手の一次の仕掛けがよくなって、そうなると2次、3次でのディフェンスがきつくなる。1次であれだけいかれると厳しい。けど1次でいかれていたのは、春のときのように4つも5つも悪かったからではなく、1つ2つのところだったから、そこは根本からというより、細かいところの修正。そこはこれからやっていく。あとはFWのショートサイドのディフェンスがよくなかった。あれだけ食い込まれると…。関東戦とは全然違ったし、自分がそこで何をどうしなければいけないのか、どういうタックル、どういうディフェンスをするべきなのかが分かっていない。練習でやってないことはできないということ。関東に対してしっかりできたのはかなり意識していたからだし、今日は慶應に対してその意識がだいぶ薄れてしまっていた。アタックでバタバタしてしまったのは、この夏あまり取り組んでいないというのもある。関東までとにかくディフェンスとブレイクダウンで勝つと言ってきたから。そこはこれからの課題。3次までで取ろうということでやっていたけれど、ちょっとシチュエーションが崩れると、スクラムやモールが崩れると、FWが1次のポイントに入るのか、2次のポイントに入るのか、自分の役割が曖昧になってしまって、動き出しも遅くなってしまっていた。これからは臨機で自分がどうするのかの役割をハッキリさせていかなくてはいけない。今日の試合での教訓はたくさんある。気持ちは入っているけれど体は動かないということはシーズンに入ってもあることだし、この合宿ではずっと追い込んできたから、実際学生たちに疲れもあった。でもそういった状況でこそ、いかにやれるかを鍛えていかないといけないし、そういった状況での最低ラインも上げていかないとシーズンでは戦えない。シーズンの初めにムラのないチームにしようと言ってきたけれど、まだまだムラがある。週の間にもあるし、その日のなかでも。精神的なところも含めて。こいつがダメなときはあいつ、あいつがダメなときはこいつ。絶対的なリーダーがいないから、お互いが助け合うチーム作りをしていかないといけない。今は東条、甲子郎がいないなかで、色々な奴が必死に引っ張ろうとしているのはいい状況だと思う。夏合宿は本当に短かった。アッと言う間で。この合宿ではかなり厳しく当たってきたから疲れているし、体も大きくはなっていないから、東京に帰ったらまずウェート(合宿でもしていましたがさらにです)、フィットネスをやって、課題である個々の役割を落とし込んでいく。まだまだミスもあるけれど、ディフェンスではいいイメージを持てるようになってきたから、これからはやっとアタック。ワセダらしい楽しいラグビー、学生たちも存分にポテンシャルを発揮してくれると思う」
<すべては練習から リーダーとしての責任を改めて強く感じる東条雄介>
「ドキドキでしたね…。関東戦のときと雰囲気が全然違いました。ブレイクダウンも緩かったし、ディフェンス緩かった。チームとしての意思統一ができていない。ディフェンスで食い込まれすぎだし、動き出しの1歩が遅いし、セットも遅いし、前にも出れない。練習してきたシチュエーションと全然違う風になってしまっていた。そこは見ていて歯がゆかったし、ストレスが溜まる感じです。アタックでも敵陣にいけないし、順目順目に全然攻められない。動き出しの1歩が遅いからその後がすべてダメになってくる。最後の10分いい流れで逆転できたのは、自分のやらなくてはいけないプレーがそれぞれ分かったから。こいつはここ、あいつはここと役割が明確になったし、立ってプレーする意識も出て、うまく回りだした。あれを最初からやらないと…。このチームはまだ波が激しい。いいときはものすごくいいけど、悪いときは全然。コンスタントに力を出せないと勝てるチームにはなれない。そこは課題です。攻め方もだいぶ整理されてきたし、あとはセット、ブレイクダウン、その整理されつつあるものをいかに出せるか。練習でやっていないことを試合で出すのは無理なので、練習からいかに試合を想定してやれるか、モチベーションを持ってやれるか。そこはリーダーがなっていかないといけないと思っています。今日もみんな大人しかったですから」
<自分たちでも考えて 今後の飛躍を誓うゲームキャプテン・後藤彰友>
「まだまだですね。この夏はディフェンス、セットのところをずっとやってきたのにそれすらできてなくて…。関東に勝ったからといって、自分たちは強いなんて思ってもないし、気持ちが入っていないということもないし、これが今の自分たちの実力です。ディフェンスは食い込まれすぎ。取られるようなところではないのに、淡白に取られる。1番がんばるべきところでがんばれない。そういうのがヌルイところです。アタックに関しては、ようやく精度、拘りというところを言うようになりましたけど、まだしっかりできてない状態。BK同士も話し合って意思統一をしているところですし、FWもひとつひとつのプレーを話し合うようになった。昨年清宮さんがやってくれていたところを、やっと自分たちでできるようになってきたところです。ただ与えられた課題だけをこなすのではなく、自分たちでも課題を見つけて取り組んでいかないと強くはなれない。今年はそういうスタイルです。みんなで作っていく。今の自分たちは強くもないし、まだまだなところだらけですけど、これから伸びる余地はたくさんあるチームだし、逆に自分たちでそれを乗り越えられたら、グッと上がっていけると思ってます。そこは本当に関東戦後に変わったところ。ただ与えられるだけでなく、やっとみんなで考えられるようになってきました」
<客席からも大声援! 見事故郷に錦を飾ったフランカー笠原歩>
「勝ったけれど、ギリギリの試合になってしまったというのが1番の反省点です。昨日のミーティングでもムラをなくそうと言っていたのに、ものすごくムラのある試合をしてしまって…。自分は後半からでしたけど、やれることは球出し、とにかく接点に早く寄って球を出す。それが自分の仕事、いいボールを供給することだけを考えてました。あとはディフェンス。今日は出すべきところで出ないとか、FWのチェイスの出足が遅いとか、ちょっとずつのところが重なって、こういう試合になってしまった。最後はもう本当に危機感。自分自身もそうですし、絶対に負けられないという思いを全員が持っていた。自身としては今は上にも絡めていますけど、ライバルはたくさんいますし、本当にこれからです。自分は有田みたいなタックルはできないし、東条みたいなリーダータイプでもない。中竹さんにも言われているルーズボールへの反応、球出し、そういったところで勝負です。チームの潤滑油になれればと思ってます。とにかくしつこく、あとは気持ちで。菅平は家(長野高出身です)から40分。今日は家族、友達、高校生、みんな見に来てくれた中、赤黒でプレーできて個人としてはいい一日になりました」
<鍵はHB団 今一度アタックの整備を求めるSH矢富勇毅>
「ホントまだまだですね、僕たちは…。こんな試合をしても最後には勝ってしまうのは、力があるということなのかもしれないですけど、全然それを出し切れていない。そこはこれから詰めていかないといけないところです…。本当に最悪の試合。ワセダは見に来てくださった方に楽しんでもらう、おもしろいラグビーをしなくてはいけないのに、やってはいけない最悪の試合をしてしまった。1番は自分たちのやるべきことが全然できていないこと。ディフェンスでは差し込まれて、前にも出られない。ワセダとしてやってはいいけないことを平気でしていたのが、こういう試合になってしまった要因です。アタックももうちょっと整備しないといけないです。みんなでもう一度よく考えて。絶対にできるチームですから。鍵は僕と曽我部。整理していかないといけないですし、監督、コーチと話してしっかり方向性を決めるように。あとはブレイクダウン。もっと圧倒しないといけないし、1対1でみんな倒れすぎ。SHとしてもそこはものすごく感じるところです。最後も倒れない意識で立て直せた。ディフェンスも練習でやってきたのと全然違うことをしていた。1次からあれだけいかれるとキツイ。みんな大人しいですし、これからやらなければいけないこと盛りだくさんです…」
<練習とのギャップ… 5人抜きのカウンターでチームを救ったFB五郎丸歩>
「緩いです。練習でやっていることを全然出せていない。動き出しのところが全然ダメですし。BKのディフェンスは練習でやっているのと違うようにやるからああいうことになってしまう。あれだけ1次でいかれるとキツイ。今年のチームはムラがある。若いからしょうがない面もあるけれど、1度うまくいかなくなると、トライを取るまで立て直すことができない。ディフェンスも淡白だし、簡単に取られすぎ。いつもと全然違っていた。今日はシンドイというより、ヒヤヒヤした感じでした。トライですか?、あれは取れます、さすがに。タックル甘かったですから。今日もBKは全然ダメ。試合と練習は別というか…。今日よかったのは接戦が経験できたこと、それで勝てたことくらいです。あと3週間でシーズンが始まりますけど、昨年と違って余裕は全然ない。今一度みんなでしっかり考えていきます」
<長野の星・笠原歩 試合後にはちびっ子からのサイン攻め>