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Beat Up

2024

対関東学院大 プロジェクション、冷静と情熱の間…


 豊田将万が、ワセダが、こんな気持ちで『夏関東』を迎えたのは初めてだった。迫り来る恐怖、究極の緊張感。「始まるまではものすごいものがあったんですけど、直前の円陣で中竹さんが笑いながら、この逆境を楽しもうって言ってくれて、あぁそうだなって。この逆境を乗り越えられたらワセダは変わるんだと思えた。あの中竹さんの言葉には本当に救われました」――。もし関東に4つ負けるようなことになれば、大変なことになる…。そんなプレッシャーに打ち克ち、己に打ち克ち、『豊田組』は、また新たなものを手に入れた。逆境にこそ奮い立つ。極限の状態にこそ、その真価を発揮する。それはワセダがワセダであるための絶対条件―
 合宿初日の8日夜、中竹監督からこの夏における壮大なテーマが発表された。スクリーンに大きく映し出されたその文字は、『プロジェクション』。日本語に置き換えれば、『先読み』。選手はもちろん、トレーナーもマネジャーも、126人全員で、なぜ?を考える、何?を考える、どう?を考える、イメージを持ち、共有する。ただ漠然とやっていては意味がない。大人の組織に成長を遂げるべく、現代の若者がもっとも苦手とする?難題への挑戦をスタートさせた。
 およそ1年ぶりとなる関東戦。ただでさえ難しい相手が、モチベーションMAX、テンションMAX(どのチームもすごくイキイキ、ピンピンしてました)の状態でくれば、思いどおりにことが進まないのは、ある程度は『先読み』済み。決してブレない、自分たちを信じて戦う。あと一歩でのミス、ミス、ミス。加えてトライ直前、スイープに入るべき人間が到達できずにボールがこぼれ、そこから90メートルを切り返される(セオリー破りのディフェンスも痛かった…)など、未熟さも露呈しながら、しっかりと要所は抑え、常に優位にゲームを進めていった。30分、ロック中田英里を起点とした渾身の連続攻撃で同点に追いつくと、直後にはSO山中亮平のスーパーハイパント一発で相手を崩し一気に逆転。後半22分にはスクラムアタックから加点。「先にトライは取られましたけど、自分たちのミスで形で取られたわけではなかったですし、問題ないとみんなで話して、しっかり戦えたと思います」(副将・長尾岳人)…。「今日は点差はつきませんでしたけど、ディフェンスになれば大丈夫だろうって。宮澤にしろ、フランカーにしろ、しっかりやってくれていたので心配ない。みんなで前に出て、チャレンジして越えていけたり、カウンターへのディフェンスであったり、随所に取り組んできたことが出せてよかったです」(主将・豊田将万)…。
 そんな『先読み』しつつ、冷静に逆境を楽しみつつ戦うなか、チームの先頭に立ち熱く燃え続けたのが、U20日本代表で屈辱を味わったSO山中亮平。この日の「背番号10」はこれまでとはまるで別人。FB井口剛志に放った文字通りのキラーパス(スローフォワードを取られトライにはならず…)などアタックは言わずもがな、ディフェンスで刺さる、また刺さる。自分のひとつ外と思える領域へもイの一番にタックル。体を張り、声を出し、チームを動かし続けるその姿からは、「俺がこのチームを引っ張る」「絶対に変わってみせる」の強い意志が感じられた。
 この変身の大きな要因は、6月に日本代表の一員として臨んだU20ジュニアW杯での初めての経験。関東戦前日、全部員に配られた部集『鉄笛』には、その想いの丈が綴られていた。「U20ではずっとリザーブだった。俺のプレーすべてを否定された感じで、今までで一番悔しかった。~中略~ 考えが甘すぎるやろ?お前はそこまでうまいんか?そんな奴が赤黒の10番着て試合に出ても、周りは納得せえへんぞ? ~中略~ 変わなあかん。もっともっと体を張ってうまくならなあかん。このまま終ったらあかん。どんな相手だろうとぶれない選手に絶対なる。もう悔しい思いはしたくない。俺はこの先誰にも負けない」―。山中亮平、男に二言はなし。同じくU20組で言えば、ボールのあるところに顔を出し続け、存在感をみせた中田英里の成長も、大きな大きな収穫だった。
 そしてもうひとつ、この試合での大きな変化が試合前のアップ、キックオフまでの持っていき方。前日のCD戦は誰もが号泣して試合に臨むも、本当にその涙に中身は伴っていたのか、表面上のものではなかったのか。この日のファースト15は実に自然体。涙があったとしても、それは感情におもむくままの涙。「何かすごく変な気持ちというか、熱くはなっていたんですけど、チーム全体としては静かというか、冷静のなかに熱さを持って臨んだという感じでした。Aのアップには中竹さんの昨日今日の言葉でしっかり気持ちの整理された人間が集って、すごくいい精神状態だったと思います。すごく楽にというか、楽しめる精神状態で臨めたのがよかったです」(副将・瀧澤直)。ワセダが模索する新たな境地は、冷静と情熱の間…。
 最後の最後には伝家の宝刀・ゴリゴリに屈し、スコアはもうちょっといけたかなとも思ってしまう21-12。アタックの精度をもっともっと高めなくてはいけない。スクラムもまだ100点満点とはいかなかった。しかし、数多の障害を乗り越え、今年最大のプレッシャーに打ち克ち、1年ぶりとなる関東戦を制したことは何より大きい。これを機に、ワセダは更なる高みへと突き進む。関東はいつもそのキッカケをくれた相手。『プロジェクション』、そして冷静と情熱の間。全員でしっかりと考えて。『豊田組』には今、どんな未来が見えているのか―


<プロジェクション! この夏の成果に課題を改めて口にする中竹監督>
「これは全員の前でも言ったけど、今日は逆境のなかでどうできるのかが見たかった。そういう意味では、あのものすごい緊張感のなか、ひとつのミスも許されないような緊張感のなか、勝つことができたのは大きい。BCDが負け、4タテの恐怖があるなかで、そのプレッシャーをはねのけ、いいゲームをしてくれたのは見ていてすごく嬉しかった。現時点での満足度は決して低くない。この夏はきちんと考えて、ひとつひとつ本当に意図を持ってプレーすることが大きなテーマ。今何をすべきなのか、なぜそうするのかをしっかりと理解してプレーする。まだまだできていないところがあったけど、その取り組みの成果がたくさん見られてよかったと思うし、それで勝てたことはすごく大きい。でも一方でチームとしての力はまだまだ足りないんだなと。あの取られた2つのトライ、攻めていた場面からのディフェンス、ゴール前の拘りのなさ、精度の低さ。そこは意識してやっていきたい。関東は接点が強かったけれど、うちは全然負けていない。勝っているところが多々あったし、ディフェンスが前に出たときのブレイクダウンは相手を圧倒していた。これは練習の成果。今日は宮澤、山中らが本当に前に出て、すべてのチームの見本になるようなディフェンスをしてくれた。そこからトライが生まれたことは素晴らしい。今日の勝利でまたチームとして成長、変わっていけると思う。BCDの敗戦についてはそれぞれ原因が違うけど、Dは完全に基本のところでの負け、戦術理解もできていなかった。ジュニアは基本プレーしかやっていないのにそれができなかったら、ああなってしまうのは当然。今一度徹底していかないといけない(C戦は上写真のような濃霧と雷で打ち切り)。Bは勝負どころで、消極的になってしまうプレーヤーがいたり、逆境でセオリーを破ってしまったり、それをやってしまったらワセダは勝てないというプレーをしてしまった。これを機に気づき、変わってくれると思う。次のクールに向けては、当然チーム全体でたくさん反省はするけれど、この夏にやること、方向性も既にすべて決まっているので、それを変えることはない。このままひとつづつ課題に取り組んでいこうと思ってます」

<今年一!プレッシャーに打ち克ちひと回り大きくなった主将・豊田将万>
「今はとりあえずホッしています。BCDが負けて、崖っぷちに追い込まれた苦しい状況で勝ててよかったです。始まるまではものすごい緊張感があったんですけど、直前の円陣で中竹さんが笑いながら、この逆境を楽しもうって言ってくれて、あぁそうだなって。この逆境を乗り越えられたらワセダは変わるんだと思えた。あの中竹さんの言葉に救われました。一週間ずっと感じてきた恐怖、プレッシャーを乗り越えられたかは…、試合の内容はよくはなかったですけど、勝つことができたのでよかったんだと思います。下級生たちも自分が引っ張るんだという気持ちでやってくれて助けられました。関東はやっぱりブレイクダウンが強いなと。ただ、僕たちも春に強い相手とやってきましたし、特別な感じはなく、しっかり戦うことができてよかったです。改めて関東はそこで勝負してくるチームだと感じました。今日は点差はつきませんでしたけど、ディフェンスになれば大丈夫だろうって。宮澤にしろ、フランカーにしろ、しっかりやってくれていたので心配ない。みんなで前に出て、チャレンジして越えていけたり、カウンターへのディフェンスであったり、随所に取り組んできたことが出せてよかったと思います。スクラムについては、しっかり止めて前に出てという理想どおりにできれば、もっとゲームが変わってくるんだろうなと思います。でも大丈夫です。今日の感じなら絶対にやってくれます。これからのキーはスクラムです。久々に関東と戦いましたけど、やっぱり試合前には独特の雰囲気がありますし、みんなの顔もいつもとは全然違う。やっぱり特別な相手だと思いました。けど昨日の夜、中竹さんに言われたんです。形だけ気持ちを作ってもダメだって。たしかに、みんな号泣していたり、気合いは入っているんでしょうけど、拘れてないなと僕も感じました。次はそういうことがないように。意気込みに中身が伴うよう持っていくことが大事になると思います。こんなにケガ人の多いなか、勝てたことは自信になりましたし、代わりに出た選手も俺がやるんだというものを出してくれて、これでまたチームとして変わっていける。来週にはもう、すぐに帝京戦。うかうかしてる暇はありません。また全員で向かっていきます。BCDは負けてしまったのは実力です。関東が強くて、ワセダが弱かった。そこをもう一度各チームのリーダーを交えながら考えて、ただ負けたからダメというのではなくて、どこが弱いのか、何が足りないのかをしっかり追求していきます」


<スクラム、スクラム、スクラム! 改めて心を定めた副将・瀧澤直>
「原田君とはお互い何個ずつでしたかね? 正確には全然覚えてないですけど、ペナルティが2:3、ターンオーバーはたしか2つされて1つお返し。そのひとつはいい形のものではなかったですね。けど、向こうも納得のいくスクラムは組めていなかったはずです。全体的によくはなかったですけど、形としてこの夏取り組んできたところは垣間見えましたし、豊田も言った様に、スクラムがいければワセダはいけると改めて分かりました。僕たちフロントはもうスクラムだけ。僕の残りのラグビー人生はもうスクラムに懸けるだけだと思いました。僕を筆頭にまだ荒削りですけど、後ろの意識だったり、この夏のやってきたことは徐々に出てきているなと。これまでになかったくらいスクラムを組んできて、だんだんとその形が見えてきた。そんなイメージです。今日の試合は、何かすごく変な気持ちというか、熱くはなっていたんですけど、チーム全体としては静かというか、冷静のなかに熱さを持って臨んだという感じでした。試合前の盛り上がりという点では、BCDの方があったと思いますし、激しさも声も上回っていたと思いますけど、Aのアップには中竹さんの昨日今日の言葉でしっかり気持ちの整理された人間が集って、すごくいい精神状態だったと思います。すごく楽にというか、楽しめる精神状態で臨めたのがよかったです。僕の対面との対決がキーになると分かっていたので、諸岡さんには、今まで組んできてこういう状態になっているからここを意識しよう、こういう組み方をしようと、練習からアドバイスをしてもらいながらやってきました。それに対して完全な答えを出せなかったので、今日のスクラムでしたけど、見えてきたかなと思います。チーム全体で言うと、Aだけが勝ったからよいというものでは当然ないですし、すぐに帝京戦もあるので、もう一度引き締めないといけないです。BCDの結果というのは覆せるものではないですけど、4年を中心に各リーダーで、この結果から少しではなく、大胆に変わっていかなければ、ワセダとしての伸びはないと思います。全員でしっかりと考えて、変わっていけるようがんばります。自分はもうスクラムだけです」


<上だけでなく全員で! 組織として更なる高みを目指す副将・長尾岳人>

「試合前日まではすごく緊張してたんですけど、もう当日になったら怖いとかそういう気持ちではなく、いい緊張感で試合に臨めました。BCDとやられていたので、自分たちはいいイメージだけを持って。練習してきたスクラムからのアタックも、空いているところを考えながら、常にみんなで話をしながらできましたし、よかったと思います。BKのディフェンスは、FWが関東のあのすごい面子相手にがんばってくれていたので、それに触発された感じです。自分のトライはすべてごっつぁんでした(笑)。山中のあのハイパントは練習よりも高くて、相手にあのくらいのを蹴られたら自分たちも取れません。いい自分たちの武器です。BKのディフェンスで言えば、山中、宮澤のふたり、めちゃくちゃよかったと思います。特に山中は近くで見ていて、めちゃくちゃディフェンスよくなったなって。U20で悔しい思いをしたみたいですし、いい傾向です。先にトライは取られましたけど、1本目は自分たちのミスで形で取られたわけではなかったですし、問題ないとみんなで話して、しっかり戦えたと思います。もう少し取れる場面がありましたけど、そこはこれからの課題です。通算したら負けてるわけですし、ワセダはAだけが勝てばいいというチームではないので、これから自分たちが引っ張って、B以下も勝てるように、またみんなで意識して、しっかりとした組織を作っていきます。Aも今日でまた変われる。やってきたことが出せて、自信になったと思います」

<ビッグヒット連発! U20での悔しさをバネに変身を遂げた山中亮平>
「めっちゃ嬉しいです。今はもうその気持ちだけ。DCBと負けていたので、自分たちAは絶対に勝つんだって。ホント嬉しいです。ディフェンスはU20に行ったときに全然できず、それがすごく悔しくて、ここで変わらないといけないと、心に決めました。今日タックルにいけたのは、裕司さんにして頂いたポジション練習(通称「マジカル生タックル」)の成果だと思います。あれだけ体を当ててガツガツやってきましたから。あの練習のおかげです。ゲーム展開としては、前半ずっと敵陣で戦えていましたし、最初に取られたトライも自分たちのミス。その後はいいトライもありましたし、いい展開だったと思います。攻めていた割にスコアが伸びなかったのは…、やっぱりミスです。テンポよくボールが出ないところがあったり、そういうところは練習どおりにいきませんでした。あのハイパンは今日一でしたね(笑)。練習どおりです。この春U20で本当に悔しい思いをしたので、絶対に変わってやります。ディフェンスがんばると決めました。チームとしても今日の勝利をいいステップにして、次の帝京も切らさず、もっともっといいゲームをして勝ちます。今日は新ルールで初めて試合をしましたけど、色々変わるところがあるなと感じました。キックを使う機会が増えるので、精度が上がるように練習します。今日の勝利はワセダにとってすごく大きい。負けてしまった下のチームにも関東とやって得るものがありましたし、ワセダはこれでまた変わっていけると思います」


<北川勇次と互角? A初スタメンで存在感を示したロック中田英里>

「今回がAチーム初スタメン、加えて自分にとっては未知の相手、今週はずっと恐怖を感じながら過ごしていました。関東は絶対に強いですし、もし負けたら…って。試合が始まる直前までは怖かったですけど、いざやってみると、接点は思っていたよりも強くないし、全然いけると思えました。でも、やっぱり北川さんは強かったです。自分よりデカイ相手とやるのは外国人以外では初めてで、周りにもジャンボ対決だなとか言われるわけですよ。それでプレッシャーも感じていたんですけど、しっかり戦えてよかったと思います。とにかくAスタメンが初めてだったので、今日はガムシャラにやろうって。試合の中身については、あまり覚えてません…。プレーのことはほとんど(笑)。最後は走れなくなっていたので、そこは反省です。春U20に行ったことがモチベーションになっているというか、接点が楽しいと思えるようになりました。これまではタックル嫌だなとか思っていたんですけど、通用したことで、接点に自分からドンドン行こうって。勝つのがワセダ。その点ではよかったと思いますし、今は少しホッとしています。今年は確実にAに定着して、まだ2年ですけど、ドンドン自分からボールをもらって、前に出て起点になる。僕からトライが生まれるように、接点でドンドン戦っていきます」

<CTB宮澤正利、スーパーハイパントにしっかり競り勝ちトライを演出!>