大阪の地でも響いた『One Shot』の掛け声。部員から観客へと波及するその一体感でつば迫り合いのゲームを制した。1トライ1ゴールで試合がひっくり返る小さな点差の中、規律正しい早大のディフェンスは何度も漆黒のジャージに食らいつき、年越しへの切符をつかんで見せた。試合開始から天理大にノーホイッスルトライを許し、暗雲が立ち込めたヤンマースタジアム。しかし焦りを見せなかった早大はシーソーゲームの展開となりながらも得点を重ねる。ラインアウトの安定性は欠いたが、スクラムで優位に立った早大。反則を獲得しながら前半を19-14と5点のリードを奪って終えた。続く後半はノースコアのまま時計の針が進み、次の1トライがその後の行方を左右することは間違いなかった。我慢強い守備で天理大アタックのミスを誘発した早大は少ないチャンスで得点を生み出し、天理大を突き放す。点差を縮められた試合終盤は引退のかかった緊迫感のある雰囲気の中、タックルで勝利を手繰り寄せた早大が2026年1月2日の国立競技場へ駒を進めた。

天理大のキックオフで始まった運命の大阪決戦。いきなり自陣深くでボールを奪い返された早大はFWの圧力に屈し、早くも先制トライを許してしまう。立ち上がりで失点した早大だったが、再開のキックオフでボールキャリアーをピッチ外へ押し出し、敵陣でのプレータイムを伸ばした。6分、SO服部亮太(スポ2=佐賀工)のラインブレイクから天理大22メートルライン陣内に入ると、No.8松沼寛治(スポ3=東海大大阪仰星)の鋭いキャリーでハイタックルの反則を誘発。ゴール前でのモールからキックでボールを展開すると、WTB田中健想(社2=神奈川・桐蔭学園)がインゴールに飛び込んだ。
試合序盤に両チームにトライが生まれ、殴り合いのゲームになるかと思われたがここからは守備が光る展開に。15分、自陣でのペナルティーで再び危機を迎えた早大。しかし、規律正しいディフェンスで耐え忍ぶと試合の流れをつかんだ。18分、服部が意表を突く逆目の裏のスペースへのキックで50:22を成功させる。その後のラインアウト一次攻撃で天理大守備網を破壊したのはLO栗田文介(スポ4=愛知・千種)。ダイナミックなプレーで逆転トライを生み出した。
得たリードも束の間、22分に天理大にSO上ノ坊駿介(天理大)を中心とした流動的なアタックで再び失点を許してしまう。29分、今試合最初のスクラムは天理大ボール。早大が押し込みながらも展開されたボールは高く蹴り上げられた。WTB池本晴人(社3=東京・早実)から服部を経由し、FB矢崎由高(スポ3=神奈川・桐蔭学園)に託された楕円球。軽快なステップで自陣からタックラーをかわし、フォローに走っていたSH糸瀬真周(スポ4=福岡・修猷館)にラストパス。中央にグラウンディングし、CTB野中健吾主将(スポ4=東海大大阪仰星)のキックも成功。19-14とまたも早大がリードを奪った。
36分、早大は自陣のマイボールスクラムでコラプシングの反則を獲得し、加速していく。試合の主導権を握ったまま前半を終え、勝負の後半へと臨む。

5点差で迎えた後半。早くも早大がチャンスを得る。攻撃で天理大を押し込み、敵陣深くで長い笛が吹かれると糸瀬が速攻を仕掛ける。守備を後手に回すことに成功したが、惜しくもノックフォワードで得点にはつながらない。転じて7分、天理大がハイパントキックの再獲得に成功し、一気に自陣に流れ込まれた早大。ピンチを迎えたが、ここでチームを救ったのは守備の要、FL田中勇成(教4=東京・早実)だった。値千金のスティールでターンオーバーすると、早大は持ち前の攻撃力でゴール前まで侵入した。1トライ1ゴール以上の点差が欲しい状況だったが、ここでもスコアすることはできず、リードを広げることはできない。次のトライが流れを大きく左右する展開の中、試合はボールを保持するフィジカルの勝負へと移り変わっていく。20分、天理大の継続するアタックで少しずつ陣地を奪われながらもトライを奪われることはなかった早大。24分、ついに天理大のアタックにミスが生まれ、攻撃権を得るとハイタックルのペナルティーからゴール前に侵入。モールを組まずにボールを展開し、細かくパスを繋ぐと最後は矢崎がトライ。今試合幾度ものチャンスを生み出してきた15番が千両役者ぶりを発揮した。難しい角度のキックを野中が決め切り、スコアは26-14に。
12点差のリードを得て、このまま安定感のある試合運びにしたかったが天理大が関西王者の意地を見せつける。大外での力強いゲインで早大の守備が乱されると、雪崩れ込むようなアタックでゴール中央をこじ開けられた。キックも決まり、26-21。またも5点差となり、試合は残り10分に。36分、天理大に攻められる時間が続いた早大だったが、自陣でも反則を犯さないディフェンスで天理大の猛攻を凌ぐと、No.8粟飯原謙(スポ4=神奈川・桐蔭学園)の好タックルでついにボールを奪い返す。FWでフェーズを重ね、ノータイムを告げるホーンが鳴ると同時に服部がボールを蹴り出した。

「早明戦が終わり、大学選手権のトーナメントを見た時にここが最大のヤマ場になると思っていた」と大田尾竜彦監督(平16人卒=佐賀工)が振り返ったように、一進一退の攻防はまさに手に汗握る戦いであった。5点のリードを追いかけられるというプレッシャーのかかる展開の中、早大のディフェンスは最後まで乱れることがなかった。「ジュニア選手権で優勝したメンバーが勢いを与えてくれた」。試合後のインタビューで田中(勇成)が語ったのは天理大のアタックをコピーしたBチームへの感謝。関西王者との対戦に向け、チームが一丸となった証が今試合の勝利だろう。
チーム野中は年越しに成功し、次戦は国立競技場での帝京大戦。昨季の決勝での借りを返し、頂を懸けた戦いに駒を進めることができるか。『荒ぶる』への大きな一歩を踏み出すため、避けられない真紅のジャージとの対戦で白星を奪い取れ。
記事:村上結太、大林祐太 写真:安藤香穂、伊藤文音(早稲田スポーツ新聞会)
